笑い事ではないんだけどね

■車検の時期がやってきた。現在の車はホンダのフィット2。来月で丸11年である。自分としては最低でもあと2年、つまり今回の車検を通して次の車検の時期に買い替えることになるだろうと漠然と思っていた。気に入っている車ではあるが、さすがに丸13年となると見えない部分での経年劣化が著しくなるだろう。フィットの前に乗っていたステップワゴンがそうだった。ちょうど13年経った頃にエンジンが急に止まってしまう現象が出始め、それは結局連れ合いが阪神高速道路を走行中にいきなり走行不能状態に陥るという、彼女のトラウマとして残るに十分な事態を招いた。今のフィット2が必ずそうなるというわけではないであろうが、やはり可能性は高くなる。それゆえ「車検を通すのは今回が最後かなぁ」、「2年後には(買い替えを)考えねばなぁ」と思っていた。

 しかし事態は悩ましい方向に進み始めた。

 前回の車検から約1年経過後の昨年の4月に行きつけのガソリンスタンドでエンジンオイルの交換をしてもらったところ「ほとんどオイルが残っていませんでした」と言われた。そんなことは初めてだった。そしてそれから半年経った10月の終わりに、長野に行った帰りの高速道路上でオイルランプが点灯。これはまずいと思ってすぐにパーキングエリアに立ち寄り、そこにあったガソリンスタンドで見てもらったところ、またしても「エンジンオイルがほとんど残っていない」と言われて愕然とした。その場で2リットル補充してもらい何とか事なきを得て自宅まで辿り着いたが、翌日にすぐにオートバックスに行ってオイルフィルターの交換も含めて改めてエンジンオイルの交換をした。ゲージで十分アッパーレベルに達していることも確認した。「これで少なくとも半年は問題ないだろう。やはり11年にもなる車だから、これからは半年に1回のオイル交換をせねばなるまい。しかし、それであと2年乗れれば良しとしよう」

 そんなふうに思いながら2カ月半経ったのだが、今日の点検でエンジンオイルがゲージ上では半分以下になっていた。オイル交換して3カ月も経たず、また交換後の走行距離が約1200Kmなのにである。

 更に時期を同じくしてエンジン音に異音が混じるようになった。具体的には発進時にアクセルを踏み込むとわずかに「カラカラカラカラ」という音が聞こえ出し、そこから加速すべくアクセルをもっと踏み込むと終始「カシャカシャカシャカシャ」という音が聞こえてくるようにもなった。エンジンオイル量の短期間での減少とエンジン内からの異音は頭の中に「このまま乗り続けても大丈夫なのだろうか?」という大きな不安を生み出すのに十分なものであった。

 そして今日、車検の見積もりを兼ねて、そのことを整備担当者に告げて見積もり点検をしてもらったのだが点検してくれた整備関係者から聞かされたのは以下だった。

・オイル漏れはない。

・おそらくエンジン内の何かしらの部品の劣化によりオイルがガソリンと共に燃焼されてしまっている疑いが強い。

・エンジンを分解して原因を特定し部品交換等のメンテナンスをするとなると内容によるが10万円単位の費用がかかる。

・今のところ走らせるには大きな問題はないと思われるが、頻繁にエンジンオイルの点検と補充やらグレードの高いものを使うといった交換を行いつつ注意深く運転をする必要があり、不具合が発生したらその都度対応が必要になり、もちろん費用もかかることになります。

 やっぱりな。そう言うと思った。前述のステップワゴンの時も同じようなことを言われた。そして結局「命を乗せている」という観点で「やはり安全が第一だ」と今の車に買い替える決断をした。

 さて、今回はどうするか?

 で、待ってましたとばかりに、ここで営業担当者が登場。前回の車検時辺りから私の車の担当をしている営業担当者なのだが、予想していたとおり彼がここぞとばかりに新しい車の商談を持ってきた。

「たっかぁ!」

 彼が持ってきたいくつかのカタログに記載されている各種車の車両価格を見て心の中で思わずそう叫んだ。2年前に軽自動車の車両販売価格を見て何て高いのだと思ったが、あれから2年経った今、車の値段は更に高くなっていた。今の若者が車に興味を持たないのもわかるような気がした。二十代の若者の収入では簡単に買えるような金額ではないからだ。もちろん還暦超のジジイが簡単に買えるような金額でもない。車を買うのにキャッシュの即金で支払いなんて、もう遠い遠い過去の話。今ではローンやら残クレで月に数万円払うとった支払い方が当たり前になりつつあるようだが、それでも5~7年後にはまだ相応の支払い残が残り、買取か、また新車に変えて同じような支払いを続けていくかの選択になる。更にはもはや所有者の名義は自分ではなくローンor残クレ請負会社名だ。ローンやら残クレを続ける限り自分名義の車なんて持てないわけで、「完全なる自分の車」を所有できる人間なんて今や金持ちしかいないご時世ということか。

 その後、営業担当者から色々話を聞いた。やはり今のご時世、残クレやらリースで車を保有する人がほとんどらしい。私も仮に買い替えるとなるとそうなるだろう。

 さて、どうするか?

 とりあえず今の車は乗ろうと思えば車検を通しさえすれば一応は乗り続けられる。それにかかる費用は十数万円だ。しかし前述したとおりしっかりメンテナンスをしつつエンジンの調子を注意深く観察する必要があり、更には故障して動かなくなるというリスクも背負わねばならない。もちろん新車だからと言って故障のリスクがゼロというわけではないから言ってみればそういうのって「ある種の運」だと言われれば確かにそうなのだが、やはりリスクの可能性の大小で言えば圧倒的に新車の方が小だ。

 では新車に買い替えるとなると確かに安全面では不安は激減するだろう。しかし支払いという現実を考えると私にとって新たなストレスとなることは間違いない。月額1~2万円の支払いで済めばまだしも、今や軽自動車でもそんな額では乗れない。いやものによっては普通自動車よりも高い軽自動車があるのだ。そうでなくても数年後には確実に定年退職せねばならない年齢に達し、その後の収入は間違いなく大幅に減る。仮に定年退職せずそのまま70歳まで雇ってくれるような温情的措置があったとしても現状の収入維持は難しいだろう。いやそれ以前に定年退職前にクビになる可能性だってある。ただでさえ頭が回らなくなっているこの身。プログラムが作れないような人間になったら今の職場には間違いなく居られなくなる。どこの業界でもそうであろうが使える人間であるうちはそれなりに扱ってもらえるが、使えない人間になった途端に相手の態度は急変し、ほぼ簡単にポイされることになる。大企業ならまだしも零細企業なんてそういうところは本当にシビア(というかズルイ)だから掌返しなんて当たり前。実際に過去に経験しているから身に沁みてわかっている。

 そういうことで毎月の車の支払い代を考えると新車に買い替えるという決断も簡単にはできないのが現状。ゆえに本当に悩ましい。

 とりあえず営業担当者には今即決はできないから一週間待ってくれと伝えた。もちろん買う場合の値引き交渉もすることになろう。こういうのって私はできればしたくない方で値引き交渉をしない代わりにこの後のフォローをしっかりしてくれっていうタイプだ。しかし、支払い額を見るとそんなことも言ってられないだろう。とにかく支払い額を少しでも少なくしたい。若ければまだしも還暦超のジジイだから今後本当に払い続けることができるのかといった不安を拭うことができないのだ。

 ああ、本当にどうしようか。ぶっちゃけこうなるんじゃなかろうかとある程度予想はしていたのだが、本当にそうなってしまった。金が出ていくばかりだ

 自宅に戻る途中で、そういえば実姉家の車が今回営業担当者から提案されている車種だったと思い出し、自宅に戻ってすぐに実姉に電話をかけて支払い面などを含めて色々聞いてみた。実姉家では年間で私が提案された額以上を車に注ぎ込んでいるらしい。今のご時世、新車を買うとなると現金一括払いでなくローンの類で買うとなるとどこでも似たようなものということか。実姉からは、確かに支払いはきついが安全面を考えたら、もうそんなエンジンから異音がしているような車に乗り続けるのはやめといた方がいいとしきりに言われた。確かにそれはそうだ。前の車で非常に怖い思いをしている連れ合いなんかはその気持ちが非常に強く、6対4で新車購入に傾いていると言う。

 こんなふうに電話で実姉と(連れ合いを含めて)話をしていたら、更に悩んでしまった。私だって新車に乗りたい。だが乗れるのであれば今の車に乗り続けたい。その一番の理由が「あのフィット2が好きだ」からである。エンジンから異音さえ発していなかったら間違いなく今回も車検を通して乗り続けるつもりだった。それがいつからかエンジンから「カサカサカサカサ」という音がし始め、今では「カラカラカラカラ」という音までし始めた。それを悩み考え続けていたら、ふとこんなことを思ってしまった。

 「これって『カサカサカサカサカサカサカサカサ』とか『カラカラカラカラカラカラカラカラ』じゃなくて『買え買え買え買え買え買え買え買え』とか『買い替え買い替え買い替え買い替え』ってフィット2が言ってるのかなぁ?」

 それを連れ合いと実姉に言ったら、「きっとそうやで!」と大笑いされてしまった。

 いや、笑い事ではないんだけどね……。 

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