旧友再会フォーエバーヤング?

 ※※ 普段にも増して(ダラダラ)長文(400字詰め原稿用紙換算で20枚)であることを先にお断りしておきます。

■つい先日、一番最初に勤めた会社、つまり新卒で入社した会社、の同期と十数年ぶりに再会した。彼の呼び名をここでは「T君」としよう。T君とは単に会社での同期という間柄だけに留まらず、個人的にプライベートでも付き合いがあった。20代の青春(?)時代を彼と共に過ごし、お互いに結婚してからもしばらくは家族ぐるみで付き合いのあった仲だった。しかしやはりお互いに結婚してそれぞれ家族を持つようになると、どうしても家族優先となり次第に付き合いはなくなってしまった。特に私が転職して違う会社に移ってからは益々会う機会が減ってしまい、T君はT君で離婚、転勤、再婚等プライベート面で様々なことが続いたりして、結局お互いに相手のことを考える暇みたいなものがなくなってしまった。そして気が付けばお互いにもう十数年以上も直接連絡を取るようなことをせず、辛うじて年賀状を出し合う程度の付き合いになってしまっていた。それからずっと彼と会う機会はなかったのだけれど、偶々私が彼と共通の友人に会うことになり、それならばということで久しぶりに私がT君に手紙を書き、結果前述の共通の友人やT君を含む数人と飲みに行った。それは確か50歳頃だったように記憶しているが、その時はまたT君との交流が再開されることになるのだろうと思った。しかしT君も私もまだまだ家族中心の生活が続いていて、特にT君は再婚していたこともあってまだ子供さんは小さくて自分の自由な時間が持てるような余裕はなかったようで、結局疎遠な状況は解消されず、そこからまた長い時間、彼とはやっぱり年賀状だけの付き合いのままであった。

 正直言って彼とはもうこのまま年賀状だけの付き合いのままで終わるのであろうと思っていた。いや私自身が今年の年賀状で彼を含めて「今回で年賀状はおしまいにします」と宣言したから、もうよほどのことがない限り彼と直接会うことはなかろうと思っていた。

 しかしT君との縁(腐れ縁)は切れていなかった。

 今年の1月の終わり頃にLINEに見知らぬ人からトーク(メッセージ?)が入った。表記名に心当たりはなかったのだが内容を読むに、それがT君からのトーク(メッセージ?)であることがすぐにわかった。だが彼とLINEの交換をした記憶はない。どうして彼が私のLINEと繋がることができたのだろう?

 後日その理由らしきことがわかった。どうやら私がLINEを使い始めた頃にLINEの設定にある「友だちへの追加を許可」をONにしていたから。彼には(いつ教えたのか今となってはまったく覚えていないのだけれど)私の携帯の電話番号を伝えていたようで、(それでどちらが先でどういう経緯になるのか私にはよくわからないのだけれど)彼のLINE上に私のLINEIDが友だちとして登録されていたようだ。

 彼からのトーク(メッセージ?)には、3月に会社の同期会を開くことになり久しぶりに私にも会いたいと思ったので是非とも私に参加して欲しい、とあった。私自身も久しぶりに彼と会いたいと思った。しかし同期会に関しては他の同期の人たちのことは、もうすっかり記憶からなくなっていたので「今更会う気になれん」でも書いたとおり出席する気にはなれなかったし都合もつかなかったので、結局同期会には参加できない旨を返答。これでT君とはまた当分会うことはないと思ったのだが、暫くしてまたT君から、せっかく連絡がついたのだからやっぱり久々に会わないか、とトーク(メッセージ?)が入った。それで今回久しぶりにT君と再会する運びとなった。

 とある金曜日の夜、大阪は梅田の阪神電車梅田駅の改札辺りで待ち合わせ。今回はT君だけでなくもう一人の同期であるF君も参加することになった。私自身F君とは個人的な付き合いは皆無であったのだがT君はF君とよくつるんでいるらしく、T君が言うには「XX(私のこと)がいなくなってからはFがその代りみたいになった」とのこと。私もF君に関してはある程度覚えていたものだから彼が参加することにはまったく抵抗はなかった。

 職場を出ていつもとは違う電車に乗って梅田を目指した。大阪の梅田は職場からだと電車で10分程度のところなのに自宅とはまったく違う方向だから何か用事がない限り、とんと行く機会がない街だ。学生だった頃は「梅田はホームグラウンドの一つ」と言っても過言ではないくらい縁多き場所であったし社会人になってからもよく行く街の一つであり続けたが、今の職場になってからはまったく縁がなくなってしまい、今や「近いけれどもとてもとても遠い場所」となってしまった。だから今回は本当に久しぶりだ。

 梅田に着いて地下街を歩く。しかしすぐに自分の位置を見失った。自分の記憶していた地下街は既に消失していた。いや正確には再開発の類がされ外観がほぼ変わってしまっていて自分の記憶と合致しなくなっていたのだ。


「ここはいったいどこなのだ?」


 そう思いながらあてもなく歩く。歩いては頭上の案内板を確認して待ち合わせ場所を目指す自分は完全にストレンジャーである。まさか梅田の地下街で自分がそんなふうになるだなんて想像だにしていなかった。時間の経過は本当に残酷だ。

 やっとの思いで待ち合わせ場所に到着した。辺りをじっくり見回す。あっちもこっちも大勢の人でごった返している。このような状況で十数年間会うことのなかったT君を私は探し出すことができるのか? そしてT君も私を見つけることができるのか?

 もう一度辺りをじっくり見回す。

 な~んだ、やっぱりここはここではないか。

 装飾物が変わったからわからなかったが、よくよく見たらここは昔さんざん歩き回った場所だった。新しいものの向こうには古いものが隠れている。「実物がなくなっても頭の中に残っているそれが今と繋がりさえすればこっちのもの」である。ただ年々その「頭の中に残っているそれ」が少なくなっている。きっといつかゼロになるのであろう。

 約束の時刻になった。しかし私はT君もF君も探し出せていない。LINEを見るとT君からメッセージがあり10分ほど遅れるとのこと。

 10分後に少し離れた所に、らしき二人組がいた。もし彼らでなければ失礼なことであろうと思いつつも彼らを凝視。すると向こうも私を凝視。この時点で二人がT君とF君であることを(勝手に)確信。そして近づいてみて彼らであることを認識し彼らも私を認識。しかし会うなり彼らに言われた。

「久ぶりに会うのにそんな恰好じゃわからんっちゅうねん!」

 言われてみれば私は(もちろん私服で)帽子を被り、そして縁が太めの眼鏡をして更にマスクをしていた。これでは見慣れた人ならともかく十数年ぶりに会う人間からしてみたら私だと認識することは超困難であろう。その点に関する考慮が私には完全に欠落していた。(まあ歳を取ると相手に対するこういった思いやりは失われていくものである。)しかし、それ以前に十数年という時の経過はやはり大きい。私からしてみれば彼らの顔を見てもやはりすぐには彼らだとわからなかった。前述したとおり「凝視」によってやっと判別ができた。もし私が帽子も眼鏡もマスクもはずして立っていたとして彼らがすぐに私を見つけることができたであろうか? 否、おそらくやはり彼らは私をこっそり「凝視」することになったであろう。それくらい私の顔は十数年前とくらべて劣化、つまりジジイ化しているのであった。

 だがお互いを認識すると、やはり話は早い。十数年のブランクなんてあっという間に吹き飛び、屈託のない言葉が次々に口から飛び出す。

 じぶん、太ったなぁ!

 ジジイになったって!

 俺、てっぺん禿げたし!

 俺なんか下っ腹最悪やでぇ!。

 等々、色々な発言があったのだが、「ああ、やっぱりこいつらと話すんは気ぃ使わんでええわ」と心底思った。F君とはあまり交流がなかったのだが、T君とはけっこう馴染んでいるようで、その流れでF君ともお互いに屈託のない会話でスタートできたので良かった。歳を取るとそういう部分が皆大らかになるのかも知れん。

 で、どこに行こうかという話になった。大昔はこういう場合、まずは軽く夕飯を食らい、その後行きつけのスナックに行って店の営業終了時刻、すなわちは明け方の5時まで飲んで歌ってというパターンであったが、さすがにこの歳になるとそういうのは完全に不可能。特に私は十年前辺りからほぼ酒を飲んでいないしカラオケもいつが最後だったか覚えていないくらい。T君やF君は私ほどではないようだが、それでもやはり若い頃のようにはいかないみたい。(余談になるがT君とつるんでいた20代中盤辺りは土曜日の夜になると前述したように行きつけのスナックに行って飲んで歌ってボトルをきれいに空け、明け方の5時過ぎくらいにお互い酔っぱらってフラフラになってそれぞれの寝床に帰るというようなことをしていたのだが、今から考えるとよくもまああんなことを続けられていたものだと思う。安いスナックだったから金銭的に何とかなったし、何より20代という体力が充実していた時期だったから可能だったんだろう。もし今それを再びって言われたってまず不可能。たぶん最初の水割り1杯目でほぼダウンして動けなくなるんじゃなかろうか。

 そんなこんなで結局、サイゼリヤという、まったく予想していなかったタイプの店に行くことに。何でも以前T君が誰かと軽く飲み食いするということでサイゼリヤに連れていかれたところ、アルコール類は一応そろっていて酒のつまみも適当にあるし普通に飯も食える、何よりボトルワインが何と1100円(だったかな?)という安さで、とてもリーズナブルに飲み食いできたのが良かったのだとか。私としては飲み屋に行ってもウーロン茶しか飲まないし、できれば飯が食えたらと思っていたので異議はなし。それに安く済むならそれに越したことはない。前述した若かりし頃は当時一晩で1万くらいは軽く飛んで行っていたと記憶しているが金銭面においても今はその頃のような羽振りの良さなんて微塵もないので安くて腹いっぱいになれるところが一番なのである。もちろんF君も異議なし。

 そして3人でテクテクと歩きがてら他愛もないことを話しながらサイゼリヤに向かった。

 実際に店に着くと店内は満席。サイゼリヤというと個人的には昔からファミレスという印象が強かったのだが、どうやら私のその印象はもうかなり古いものになっていたようだ。場所柄というのもあるのであろうが客はほぼ老若男女の勤め人らしき人ばかり。どのテーブルも普通の食事というよりは、やはり宴という様相が強い。サイゼリヤのような店も含めてこういう店がある繁華街というところにずいぶんご無沙汰しているからか、こういったことに関しても「隔世の感」があると言わざるを得なかった。

 店に入り、あれこれ注文し飲み食いしながら、色々な話をした。

 この十数年の間にそれぞれの身に降りかかったこと。

 ずいぶん昔の出来事に関すること。

 他の同期の人たちのこと。

 昔、(私が)大嫌いだった先輩が今はお偉い役員になっていること。

 (私の)最初の直属の上司が一時期社長になっていたが、ずいぶん前に亡くなられていたこと。

 自分たちの家族のこと。

 今ハマッている趣味のこと。

 車のこと。

 バイクのこと。

 親の介護のこと。

 離婚した時のこと。

 単身赴任したこと。

 何回も転職したこと。

 病気のこと。

 etc.

 この話になったかと思ったら、いきなりあっちの話になり、更にはそっちの話になって、またあっちの話に戻り、次はこの話をしながらそっちの話に飛ぶ。知り合って40年近く経過し途中会わなかった期間が長ければ長いほど色々な話が何の取り決めも規則性もなく交差し、時に大笑いし、時に驚嘆し、時に(当時の事情を今更ながらに知って)ちょっと憤ったり……。気心の知れた人間と喋っていると、こっちも相手も何ら防御壁を持つ必要がないことをわかっているからか疲れることがない。やっぱりこういう間柄のことを「ともだち」って言うんだろう。普段そうでない人達と表面上の付き合いしかしていない自分のような人間にとっては、こういうのが楽しい。(但しそれが過ぎると逆にメチャクチャしんどくなるのだけれど……。)

 午後7時過ぎに店に入り、結局午後11時の閉店まで話をし続けた。あっという間の4時間だった。こんなに人と喋ったのっていつ以来だろう。話した内容を(自分の薄れていく記憶の代わりに)もっと具体的にここに書き留めて置きたかったが、(前述しているとおり)あまりにお題がバラエティで話があっちこっちに飛び回ってしまったので今となってはその要領が得られないため断念するが、まあ気心の知れた人たちとの会話っていうのは、そういうものだろう。(胸糞悪い会話の記憶は嫌でも残るが)楽しい会話の記憶は刹那的でなかなか残らず、桜の花のように潔く散っていくようである。

 会計を済ませて店を出ると3人とも「まだまだ話し足りん!」ということを認識。よって近いうちに第二回を開催することを即決。それで「じゃあ、またな!」と言った途端にまた店の前でジジイ3人の井戸端会議が始まった。

 おいおい、これじゃあ終電に間に合わん!

 本当はもっと喋っていたかった。昔だったら、そのまま2次会となって明け方まで騒いだだろう。しかし今はやっぱり無理。金はもちろんだが、悲しいことに何よりそんな体力がない。

 断腸に近い思いで、「ほんまに帰るわ。次回よろしく!」と言って手を振ってその場を後にした。T君、F君も思いっきり私に手を振てくれた。「後ろ髪が引かれる」というのは、こういうことか。

 地下街を歩いて阪急電車の梅田駅を目指す。またまたここはどこなのだろうと思いつつ(ここで迷ったりしたらおそらく終電に乗り遅れるだろうから)次々に現れる頭上の案内板をガン見しつつ、それを頼りに急ぎ足で歩く。そしてやっとの思いで見覚えのあるエスカレーター(これも昔はなかったが)の前に辿り着きエスカレーターを登り切って阪急百貨店の見慣れたショーウィンドウの前に出た。

 ここは大昔、「ブラックレイン」という映画で故松田優作と外国人俳優(名前を忘れた)が対峙した場所。今はもうその片鱗がなかなか見つけられない。「そういえばあそこには、いすゞのショールームがあったんだよな」と今はその跡形も見当たらない方向を向く。その先にはナビオがあって、そして更にその向こうに東通り商店街がある。1980年代前半はその入り口にあったパンとケーキの店でずっとバイトをしていて、だから梅田界隈は当時の自分にとっては庭みたいなものだった。昔々のことである。

 阪急電車梅田駅に無事に着くと、急行が出発直前だったので急いで乗り込んだ。車内で一息ついたら何だか急に日常に戻った気がした。

 はて、今までのは夢だったのかしら? であれば今度はいつ夢の世界に向かえるであろう。


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 ちなみに4時間ほど滞在したサイゼリアであるが、ボトルのワインを注文し食べ物も何だかんだ食ったのだけれど、会計は三人で合計5,000円にも満たず、一人約1,500円強であった。普通の居酒屋なんかに行ったりすると一人5000円くらいはかかるであろうが、ここは本当にリーズナブル。次回もここかしら。

 翌朝午前6時半頃にスマホがブルった。こんな朝早くに何だろうと思って眠気眼でスマホを見たらT君からのLINEのメッセージが来ていた。LINEを開けると「同期会」っていう名前のトークルームができていて、そこにT君から昨夜は本当に楽しかったという旨のメッセージが入っていたので私も同旨を返信。しばらくしたら今度はF君からも同旨のメッセージ。(私も含め)「やっぱり老人は朝が早い」と思った。


※※※ 長文をお読み頂き、ありがとうございました。 ※※※


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